今回は、アセッサー養成講座の「論文審査編」第1回となります。
前回まで解説していた「インバスケット演習」のような「ケーススタディ」と「論文審査」では、下記の点が異なります。場合によって、「ケーススタディ」と「論文審査」を使い分けていく必要があります。
ケーススタディ | ケースの主人公となって考えるため、専門性が使えない。 評価したい能力にあったケーススタディを選択できる。 ケースを読み、考え、報告書を作成するので時間がかかる。 ケースの作成にも時間や費用が掛かる。 定型業務が中心となる者は不利となりがち。 |
論文審査 | 自由に書けるため、経験則や価値観などを発揮出来る。 意識の高さ、理想の高さなど、スキル差よりも資質の差が出やすい。 与件情報がないため、演習時間は短縮できる。 ケーススタディよりも、気軽に実施できる。 職種によって有利・不利は生じづらい。 |
結論ですが、ヒューマンアセスメントのように、詳細な能力を評価するときは「ケーススタディ」のほうが向いています。一方、人材紹介やヘッドハンティングのときは、大掛かりな「ケーススタディ」は実施しづらいため、「小論文」によって人物像の外観を掴むのが良いでしょう。
論文審査を通じた思考面の評価
1テーマにつき1,000?1,200字程度の記述を、3題程度やってもらうとその人の外観が見えてきます。1テー30分程度、合計90分程度の時間が必要になります。その場でやってもらう、もしくは事前課題として実施してもらい、インタビュー形式の面談で詳細を聞くという形が良いのではないかと思います。以下のようなフレームを定め、その中から命題を詰めていくと良いでしょう。
レイヤー | 質問例 | 引き出すもの | 見えるもの |
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未来(意志)を聞く | どうなりたいか 何をしたいか 20年後の予測 | 未来志向 挑戦心 構想力 | 文章力 構成力 論理思考 創造思考 自己理解 誠実性 |
現在(認識)を聞く | どう考えるか 自分はどういう人間か 自分の課題は何か | 自己理解 問題意識 向上心 |
|
過去(体験)を聞く | 自慢できることは何か 自分らしい体験は何か 自分が変わった経験は何か | 自己肯定感 自己表現 得意な能力 |
小論文のテーマと見方 過去を問う論文
過去を聞く設問1
過去において、あなたが人に自慢できる成果(仕事・趣味・その他)をあげ、説明してください。その際、以下の点について明らかにしながら説明してください。
1.自慢できることは何ですか ⇒ 自己認識
2.何に気をつけて行いましたか ⇒ 価値観
3.成否を分けたポイントは何でしたか ⇒ 課題設定力
4.それを今できますか ⇒ 誠実さ
過去を聞く設問2
過去において、あなたが自分の個性を最大限発揮したと思われるエピソードを紹介してくだしい。その際、以下の点についても明らかにしながら説明してください。
1.自分らしさはどこに出ましたか ⇒ 自己認識
2.それをこれからどう活かそうと思っていますか ⇒ 課題設定力
3.もっと良くするには何を直しますか ⇒ 課題設定力
こういった論文では、受講者が自分の特性や強みをどう認識しているかがわかります。また、そのプロセスで「こだわったこと」「気を付けたこと」を問うことで、受講者の価値観や関心が分かります。
論文を通じて受講者の自己認識、自己統一性、行動の特性といった資質面を把握しようとしますが、どこまで本音が書かれているかが気になります。そこで、評価者は、面談や履歴書などを通じて認識した「受講者の特性」と「論文内容」が合致しているかをチェックします。
また、「成否を分けたポイント」「自分の強みをどう活かしていくか」という設問の解答から、受講者の思考力を判断することができます。混沌とした状況から「本質を見抜く力」「やるべきことを見極める力」の保有状況が分かります。
過去を聞く設問3
自分が変わったと思われるエピソードを紹介してくだしい。その際、以下の点についても明らかにしながら説明してください。
1.何がどう変わったか ⇒ 自己認識
2.何故変わったか ⇒ 向上心、成長意欲
3.自己変容成功のポイントは何ですか ⇒ 課題設定力
4.今後の人生においてどう影響するか ⇒ 課題設定力
この設問は、いきなり出題しても受講者は返答に戸惑うかもしれません。事前に告知し、審査当日に所定時間で書きあげてもらうと良いでしょう。この設問にきちんと答えられた人は、将来性のある人です。自分の将来を良くするため、「自分を変えることができた」人です。
多くの人は、「出向経験」「海外赴任経験」「修羅場経験」などを上げるでしょう。しかし、「何が変わったか」「何故変わったか」までをはっきりと答えられる人は少ないでしょう。「苦労」「忍耐」「試行錯誤」のレベルにとどまらず、「自己変容」に辿り着いた人は真剣に取り組んだ証だと思います。
- 自分を変える必要性を強く認識する
- 今まで異なることを繰り返す
- 新たな習慣やスタイルを習得する
これが本当に出来た人か、出来る人かを見極めていく必要があります。
次回に向けて
今回は、「ケーススタディ」と「論文審査」の違いとそれぞれの活用方法、小論文のテーマ「過去を問う論文」の例と論文の読み解き方について解説を行いました。「過去を問う論文」は最もポピュラーなテーマであり、受講者にとっても取り組みやすい小論文になるかと思います。
次回は、小論文のテーマ「現在を問う論文」「未来を問う論文」の例と論文の読み解き方についての解説を行っていく予定です。