アセッサー養成講座の「面談演習編」第2回となります。
今回は、ヒューマンアセスメントで実施される面談演習の中でも、「インタビュー方式の面談」について詳しく解説をしていきます。「インタビュー方式の面談」は、「過去の行動」から人の特性や能力を評価しようとするもので、人材の採用、人材の紹介などで主に用いられます。
インタビュー方式の面談からの評価
ヒューマンアセスメントの場合は、アセッサーが主導を取り、常に「S(状況)」作り出し、受講者の行動を引き出す「ロールプレイ方式の面談」が主流となります。受講者は、その場で実際にやってみて「できる」ことを証明する必要があります。受講者を一堂に集めて様々な演習を行うアセスメントにおいては、「ロールプレイ方式の面談」を実施すること可能ですが、そうでないときは「ロールプレイ方式の面談」を行うことは困難であると思います。
実際、人材の採用、人材の紹介などで行う、「人の特性や能力を見極める面談」では、「インタビュー方式の面談」が行われています。「インタビュー方式の面談」では、その場で演じるのでなく、「過去の行動」から人の特性や能力を評価しようとするものです。お読みいただいている人の中には、こういった「インタビュー方式の面談」を実施されている人もいらっしゃると思います。
(例)あなたの成功体験は何ですか?自分が成長したという体験は何ですか?
S | T | A | R |
---|---|---|---|
やり始めたとき | |||
仲間を集めたとき | |||
反対者が表れたとき | |||
上手くいかなかったとき |
S(状況):自分の立場や役割、周りの状況
T(意図):何を目指そうとしたか?どうすればいいと思ったか?
R(結果):結果はどうだったか?どこまでできたか?何が上手くいいったか?
1つの体験につき、S(状況)を設定し、そのときの「意図」「行動」などを引き出していきます。そして、上記の表を完成させて「特性」「能力」を推定評価していきます。ただし、受講する側も十分に準備してくるので、自分の成し遂げたことや能力を誇張して説明する人が少なくありません。
何を聞くかがポイント
インタビュー方式の面談は、「何を聞くか」がポイントになります。どういう特性を持っているのか、どんな強みがあるのか、あるいはどこに弱みがあるのか、を知るために「質問」を慎重に吟味する必要があります。
次元 | 質問内容 | 得たい情報 |
---|---|---|
未来 | 夢 将来目標 | 未来志向、志 |
現在 | 性格 強みと弱み | 自己認識 |
現在 | 価値観 仕事上のこだわり | 自己認識 |
現在 | 自分の仕事 直面する課題 | 論理思考 |
現在 | ○○についてどう考えるか | 考え方、価値観 |
現在 | ○○の場面で、あなたはどうするか | 判断基軸、行動力 |
過去 | 成功体験 成長体験 | 行動スタイル |
「インタビュー方式の面談」によって何を知りたいのか
「インタビュー方式の面談」によって知りたいもの、それを受講者の「個人的な特性」「仕事を行ううえでの基礎能力の水準」です。簡単ではありませんが、少しでも正確に把握できるように様々な工夫を重ねることが必要です。
【面談によって見極めるもの】
個人的な特性:価値観やこだわり、思考様式、対人行動の様式、課題に向かう態度
基礎的能力:論理的思考、創造的思考、折衝・説得力、部下育成力、関係構築力
しかし、1回の面談ですべてを把握することは困難です。特に、面談演習だけでは後者の能力の評価は難しいです。対話の状態では、自分を抑えながら、冷静さを保ちながら面談を進めます。しかし、受講者が「自分を抑えた状態」で能力を正確に測定することは困難です。面談を複数回重ねるか、論文や問題解決のケーススタディなどからも情報を得ることによって、受講者の能力を評価することが肝要です。
「インタビュー方式の面談」から有用な情報を引き出す方法
程度の差はありますが、100%本音を曝け出す人はいません。バリアを張って自分の本音を一切出さない受講者もいます。何を聞いても、一般論、抽象論しか答えない受講者がいたとします。合否だけを判定するのであれば、「否」のレッテルを張ってしまえばよいのですが、「育成」に繋げていくのであればそういうわけにはいきません。特性を掴むまで「踏み込んだ質問」「逃がさない質問」重ねていき、相手の特性が表れるまで相手を追い詰めていく必要があります。
抽象的・曖昧な解答に対する質問
⇒具体的な解答を求める:Aですか?Bですか?
⇒具体的な行動を求める:何から始めますか?具体的には何をしますか?
⇒相手の解答に対し踏み込んだ質問を行い、本気度を確認する
⇒質問を変えてみる
⇒思ったこと、感じたことをありのまま答えてください
⇒弱点も含めて、ありのままの自分を出してください
「踏み込んだ質問」「逃がさない質問」の例
受講者 | 私の夢は、少しでも多くのリーダーを育てることです |
質問 | リーダーを育てた先には何がありますか? リーダーを育てる重要なポイントは何ですか? 組織の中では限られた人しか育成できないが、どうやって多くのリーダーを育てるのですか? |
受講者 | 私は、協調性が強みと思っています。 |
質問 | 協調性って何ですか?自分を出さず、遠慮することですか? あなたの態度は非常に理性的、私からは合理的な人間に見えるが、今までに「冷たい人」と言われたことはありませんか? 協調性は組織人ならあって当たり前、協調性しか強みはないのですか? |
受講者 | 私は、人の育成が課題だと思っています。 |
質問 | 何のために育成をするのですか? どんな人を育成するのですか? 人の育成と組織の発展は必ずしも同じ方向を向かないと思いますが、あなたはどちらを優先しますか? |
「インタビュー方式の面談」におけるアセッサーの役割
アセッサーは、受講者の回答を聞いて瞬時に「突っ込む質問」を構築する技術を磨く必要があります。常に、「えっ、何故だろう」「あっ、おかしい」と敏感に感じるアンテナをもっていなければなりません。いわゆる、漫才の「突っ込み」と同じ感性が必要です。以下、アセッサーの役割を整理しておきます。
1.知りたい部分に対し、正直に回答してもらう
「よく見せよう」という意識を取り払ってもらう。リラックスさせるとともに、もし「上っ面の答え」しか出て来なかった場合は、踏み込んで質問したり、質問を変えたり、開き直って自分をさらけ出してもらうように誘導していくことが求められます。
2.個性を引き出す
「この人の特徴だ」と認識した点については、相手を乗せて、自由に喋ってもらうとともに、「さらに広く」「もっと深く」聞き出し、受講者の個性を存分に引き出していくことが求められます。
3.ストレスチェックを行う
厳しい質問、突っ込んだ質問を通じ、「逆風になったとき」「余裕がなくなった時」どういう行動を取るかをチェックします。順風のときは、協調性、自制心、忍耐力が発揮されても、逆風が吹いた途端に変わってしまう人もいます。逆風が吹くと、その場しのぎの仮面はすぐにはがれてしまいます。
「インタビュー方式の面談」から得た情報の整理
「インタビュー方式の面談」から得た情報を整理し、特性を抽出していきます。
- 自己認識:客観的、自分に甘い、自分に厳しい
- 人との距離(初対面):近い・遠い
- 人との交流の仕方:本音・建前、論理的・感情的、配慮的、友好的
- 話し方の特徴:理路整然、感覚的、冗長、自信をもっている
- 聞き方の特徴:反応しながら聞く・無反応
- 反応の速さ:早い、遅い
- 思考スタイル:論理的、感覚的
- 意思決定:早い、果断
- 反論されたとき:聞き入れる、防衛する、反論し返す
- 想定外の状況の時:スムーズに適応する、止まってしまう
奥底にどんな信念や価値観があるのか探索します。
「ヒト志向」「合理性を優先」「最大成果を追求」「新たな意味・価値の探究」など
30分のインタビューだけで、その人の特性や能力特性を見抜くには?
多くの皆さんは、非常に苦労されていると思います。そんな魔法の方法があれば、みんなやっています。短時間で人の特性が見抜けないから、新学卒者などに「インターンシップ」で働いてもらい、時間をかけて適性を判断している会社も少なくないと思います。
しかし、「将来の活躍予測」をするのがヒューマンアセスメントです。きわめて短い時間で、本人の特性を引き出し、持ちうる能力を評価し、今後の成長や変容に向けたアドバイスを行うのがヒューマンアセスメントです。この場合でも、「STAR」のフレームを使って情報を集め、整理し、意味づけのうえ評価していきます。「S(状況)」をどう設定するかが勝負です。すなわち、「何を聞くか」「どういった聞き方をするか」を慎重に吟味します。
S | T | A | R |
---|---|---|---|
質問A | |||
質問B | |||
質問C | |||
質問D |
私であれば、以下の質問(未来・現在・過去に関する質問)をします。
- 過去:自慢できること、自分らしい成功体験
- 現在:あなたはどんな人ですか? あなたが抱えている課題は何ですか?
- 未来:あなたの「夢」「目標」は何ですか?
ただし、その場で質問をするのでなく、事前に考えてきてもらいます。そのうえで、踏み込んだ質問を行います。曖昧さを質していきます。「価値観⇒考え方⇒具体的な発言」の一貫性を見て、本気度を確認します。
次回に向けて
今回は、「インタビュー方式の面談」について解説を行いました。「インタビュー方式の面談」では、「何を聞くか」がポイントになります。どういう特性を持っているのか、どんな強みがあるのか、あるいはどこに弱みがあるのか、を知るために「質問」を慎重に吟味する必要があります。また、特性を掴むまで「踏み込んだ質問」「逃がさない質問」を重ねていき、相手の特性が表れるまで相手を追い詰めていく必要があります。
次回は、面談演習のまとめとフィードバックについて解説を行っていきます。