アセッサー養成講座の開講にあたって

開講宣言

株式会社クリエイティブ・ワークス代表、竹内俊樹と申します。

これから1年間にわたって「アセッサー養成講座」を連載していきたいと思います。
私は、これまで22年間、ヒューマンアセスメントのアセッサーとして35,000人以上の人を評価してきました。私の仕事は、ヒューマンアセスメントという技法を使って、人の能力特性や職業上の適性を診断したり、所定の能力について定量的に評価したり、あるいは、その結果を「受講者」にフィードバックしたり、受講者をコーチングしたりしています。さらには、人事部の人たちに対して、「組織活性化」に向けた課題の提示や提言を行っています。

アセッサー養成講座を開講した目的

ヒューマンアセスメントのアセッサー経験を通じ、「短時間で人を見極める技術」を身に着けてきました。もちろん、まだ完成されたわけではありませんが、この仕事に誇りをもって、試行錯誤を重ねて技術を磨いてきました。こういったノウハウを公開し、読者の方からの質問に答えていくことを通じ、自分の知識や技術を体系的にしていきたいと思っています。また、まだあやふやな点が見つかれば、さらに研究、研鑽を図っていきたいと思っています。

読者の人たちには、ヒューマンアセスメントのアセッサーになることを支援しようと思っています。また、アセッサーにはならなくても、「採用」「昇進」「配転」「人材紹介」「人事考課」など、人を評価するような仕事についている人たちに、アセッサーの視点から「新たな知識や知恵」が提供できればいいなあと思っています。

さらに、この連載を通じていろいろな方と出会い、異分野の知識を取り入れて新たな領域に挑戦出来たらいいなと思っています

アセッサー養成講座を読んでほしい人

人材に関する仕事をしている人に読んでいただきたいと思っています。まずは、人材派遣、人材紹介、ヘッドハントといった「人と仕事」をマッチングするビジネスをしている人です。また、都市銀行や地方銀行などの金融機関に所属し、人材ビジネスを開拓しようとしている人もそうです。これから、産業間の人材の大移動が始まりそうなので「人と仕事とのマッチング」の際に活かしていただければ幸いです。

当然ながら、企業内で人事の仕事に携わっている人にも読んでいただきたいです。さらには、人を評価する側の人、すなわち、部下の人事考課をするマネジャー、学生を評価する先生なども対象にしています。

アセッサー養成講座の内容

まだ詳細を体系的にまとめていませんが、アセッサー養成講座は以下のような内容を予定しています。

  1. 人を理解すること、人を評価することとはどういうことか
  2. グループ討議やグループ活動を通じた人の診断・評価
  3. 面談やインタビューを通じた人の診断・評価
  4. ケーススタディや論文を通じた人の診断・評価
  5. 能力を定量評価することとはどういうことか
  6. 能力評価の結果のデータ分析の仕方
  7. 能力開発の考え方と能力開発支援

「原理原則」の話が続くと飽きてしまうため、上記の通りには堅苦しく進めるつもりはありません。行ったり来たりしながら、上記の内容を満たしていきたいと思います。

開講にあたってこれだけは事前に知っておいてほしいこと

ヒューマンアセスメントの定義

ヒューマンアセスメントとは、「訓練された専門家が、科学的な方法によって、個人の能力の水準を診断するとともに、その背後にある個人の特性(思考・行動上の特性や職業上の適性)を診断するもの」です。簡単に言ってしまうと、「優秀な人を採用したい」「成果が上げられそうな人を管理者に昇進させたい」「将来有望な人を幹部として起用したい」といった、様々な人事上の課題に解決するため、客観的かつ合理的な基準・方法によって、人の適性を診断したり、人の持つ能力を測定したりする「サービス」であると言えます。

ヒューマンアセスメントは、様々な「シミュレーション(擬似的なマネジメント演習)」を通じて行われます。各種の演習を実施し、そこで発揮された行動や成果などを集積し、総合的な見地から能力や個人特性の診断が行われます。通常は、1?3日間の集合研修形式で行われます。研修期間が長ければ、測定の精度が高まるとともに、各種の演習を振り返ることで受講者(被験者)に気付きを与えることができるため、研修の要素も取り入れることができます。

下記の記事も参考にしてみてください。

現行のヒューマンアセスメントの活用範囲

ヒューマンアセスメントは、「採用選考」「配置・異動」「昇進・昇格」「経営幹部選抜」「能力開発」など、いろいろな用途に使われます。特に企業では、「課長への登用」「部長への登用」においてヒューマンアセスメントが活用されていると思います。

Figure:現行のヒューマンアセスメントの活用範囲
現行のヒューマンアセスメントの活用範囲

今までは、「会社内の人の異動と移動」に活用されていきました。これから、会社を超えて、業種を超えて、産業を超えて「人の移動」が本格的に始まるものと予想しています。ヒューマンアセスメントは、そういった会社の枠を超えて「人材と仕事」のマッチングに活用されてくると思います。「人材紹介会社」「人材派遣会社」「ヘッドハント会社」は、ヒューマンアセスメントのノウハウを活用することによって高次のサービスが提供できるのではないかと思っています。

人を理解することとはどういうことか

一言で「人を理解する」といっても、以下のように様々なレベルがあります。

1.人の根っこにあたる部分を理解する

人の根っことは、どんなときにやる気が出るか、何に意識が向かうか、何にこだわって行動するか、といった人の「変わらない部分」のことです。人間の行動や態度は、状況によって異なりますが、動機特性や価値観などは基本的には変わるものではありません。もちろん、大病をしたり、強烈な失敗体験をしたり、人生を左右する人と邂逅したり、そういったときには人生観や職業観が変わることはあります。1年とか2年といった短い期間で変わるものではありません。

2.人の思考様式・行動様式の部分を理解する

人の習慣化されたスタイルのことです。人によって動機特性や価値観が異なるため、人は同じ状況に遭遇しても、同じ行動に出たり、同じ考え方をしたりすることはありません。但し、同一人物であれば、同じ状況であれば、決まった行動や考え方をするものです。われわれが「性格」と言っているのは、この部分だと思います。どんな行動スタイルや思考スタイルをとるかが分かれば、おおよそ行動が予測できます。

3.人の能力水準や能力特性の部分を理解する

いわゆる「何が出来て何が出来ないか」といった能力の部分です。われわれは、人にものを頼む場合、知らず知らずにその人の能力を評価しています。マネジメントを行ううえでは、どんなことが得意か、どんなことができるのか、何を強化すれば全体が良くなるのか、そういった個々人の「思考技術」「対話技術」の水準や傾向を知ることは大切なことです。

4.目の前にいる人の考えや気持ちを理解する

どんな性格か、どんな考え方をする人かといった内面の部分でなく、今、この場にいる人の気持ちや真意の部分です。その人の本質を把握していても、人間は局面や状況によって、態度、気持ち、行動などは変ってきます。表情や仕草から、会話の文脈から、いわゆる「行間」や「空気」を読んで、人の真意を察知することは深い人間関係の絆の構築に不可欠です。

これらの関係は、以下のようになっています。どの段階で「人を理解した」を言えるか、いろいろな考え方があると思います。ただ、企業が人材マネジメントに活用する場合、上司が部下の育成に活用する場合、自分が能力開発を行う場合、以下のすべてを理解する必要があると思います。いわゆる「不変のもの」「習慣化されたもの」「可変のもの」を峻別して理解しておかないと、その人の本質を理解したことにならないでしょう。

Figure:人を理解することとはどういうことか
人を理解することとはどういうことか

STARコンセプトを使って情報を整理する

本音を明かさない、状況や役割によって行動が異なる、といった特性をもつ「人間」の個人特性をどう見極めていくのかがヒューマンアセスメントでは大切です。個人特性を見極めるため、様々な観点から受講者の行動や成果を拾い集め、それを集積し、大きな傾向性を見極め、最後には大所高所からその人の特性を説明する「コンテキスト(文脈)」を作っていきます。

「?と言った」「反論をした」「よく聞いていた」といった表面的な行動だけを整理しても、人の特性はわかりません。受講者の個人特性を捉えるには、「STARコンセプト」と言いますが、これらを一つの塊として「行動」「思考」を取り扱っていく必要があります。STARコンセプトとは、受講者の行動を以下のフレームで整理し、数十パターンの行動例から習慣化されたものを抽出するやり方です。

  • S:situation どういう状況で
  • T:task 何を目的に、どんな役割を担い、
  • A:action 何にこだわって、どんな行動をしたか
  • R:result 結果はどうであったか?

STARコンセプトによって個人の行動や思考を整理する

以下のような顧客クレームを受けたとしましょう。この状況で、「何を目的に」「どんな役割を担い」「何にこだわって」「どんな行動をするか」は人によって異なるのです。

○○自動車販売 市川営業所 △△様

新年会以来、すっかりご無沙汰しています。
ところで、先週の日曜日の午後、買い物の帰りに新型車を覗いてみようと思い、家内と貴営業所を久し振りに訪問しました。貴兄から良い車だと勧められ、GS460を半年前に購入して以来でしたが、応対に出たセールスマンから「どちら様ですか」と尋ねられる始末です。大げさな歓待を期待していたわけではありませんが、車を購入した顧客の名前と顔程度は覚えていて欲しいものと思い筆をとった次第です。
ところで、次男のIS250のスタッドレスタイヤはいつになったら入荷するのですか。スキーシーズンは終わってしまいます。息子は待ちきれないので、カーショップで購入したみたいです。代金は支払ったはずです。GS460の品質や性能には大変満足しています。

  • Aさんの回答:真っ先に謝罪に出向く、スタッドレスタイヤの代金を返金する
  • Bさんの回答:誰が応対したのか、誰がタイヤの注文を受けたのか、事実関係を調査させる
  • Cさんの回答:接客マナーの再教育を行う、納期管理の仕組みが機能しているか点検する
  • Dさんの回答:顧客が来社したら、名前や購入車種がわかる画期的システムを考える

整理すると、以下のようになります。

行動の目的担った役割こだわり取った行動
Aさん顧客との関係維持顧客とのパイプ役顧客の感情謝罪
Bさん犯人探し規律の監督役秩序の維持調査
Cさん問題の解決問題の解決者現状の改善解決
Dさん仕組みの構築新たな成果へ導き役挑戦・変革創造

STARコンセプトによって個人の特性をどう見極めるか

同じ状況におかれても、人は目をつけるところがそれぞれ違い、行動や思考の目的も異なってきます。つまり、人はそれぞれに「見ようとするもの」「見たいもの」を見ているわけで、まったく同じものを見ているわけではないのです。1回の意思決定だけで、こだわりとか、思考や行動のスタイルを見極めることはできません。数十にわたる「situation」「task」「action」「result」を積み重ねて、その人の個人特性がわかってきます。ただ、これだけでも「仮説」は掴むことはできます。

動機の方向思考スタイル行動スタイル
Aさん周りから喜ばれる意思決定は早い
思考は浅いかも
親和的、行動的、外向的
Bさんルールを守らせる逸脱行為に思考が向く慎重、厳格、内向的
Cさん正しい方法を探す仕組みの改善に関心が向く慎重、冷静、内向的
Dさん新しいことをやる未来に思考が向く冒険的、挑戦的